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伊勢物語・大和物語・平中物語を読んだ。

小学館/日本古典文学全集8 竹取物語・伊勢物語・大和物語・平中物語

2013.11.23


小学館/日本古典文学全集8 竹取物語・伊勢物語・大和物語・平中物語

思わずはまった平安歌物語の世界。

小学館/日本古典文学全集8のうち、「竹取物語」は先に感想を書いたのですが、「伊勢物語」、「大和物語」、「平中物語」読了までには時間がかかってしまいました。
「竹取物語」は、平安という背景は他の物語と共通しているもののSF的で異質でした。
一方、他の物語は、平安貴族の生活を背景とした歌物語です。伊勢、大和、平中は、それぞれ語り口が異なり、伝わってくる趣も違います。

「教養書」としての伊勢物語。

まず、藤原業平が主人公とされる伊勢物語。成立年代は不詳ですが、三つの物語の中では最も早く成立していたと思われます。全体としては業平の一代記という体裁は持っているものの、本人のエピソードに留まらず、類する歌が広く収められています。
業平の一代記として読む場合、全体の構成は、大胆な恋愛をものともしない貴公子時代の出来事、度々の東国下りの旅の歌、数々の恋愛遍歴、歌人として重用される後半生と言った風に読めます。
そのほとんどは、恋愛の顛末を描いたものですが、一つひとつの話は普遍性が重視されており、「人物を特定しない誰かの話」として読むことができます。
歌には「いつの」、「誰の」と言った注釈が取って付けたように付きますが、これは、興味を継続させるための手段でしょう。
重要なのは、「或る状況において、こんな歌が読まれた」ということで、編纂の主眼は歌を残すことに置かれたと思われます。
「歌物語」の一方には、万葉集や古今和歌集をはじめとする「和歌集」というものがあります。伊勢物語には、和歌集から物語への派生の過程があるのかも知れません。
恐らく、「歌詠みの手本」と言った意味合いもあったでしょう。「こんな時は、こんな風に詠むのですよ」といった。読んでいて時々、同じような歌ばかりで退屈だなぁと、思うこともありました。
歌を主眼に綴られた物語だと思うと、「業平」という主人公の存在感が薄れる代わりに、採り上げられた歌は洗練されているように思われます。そういう意味で、「伊勢物語」の歌一つひとつは格調高い。恐らく読者であった貴族・豪族、そしてその娘らに宮中の生活への憧れを引き出すようなところがあると思います。

「映画」のような大和物語。

「伊勢物語」が一代記だとすると「大和物語」はオムニバスですね。テーマは恋愛が多いけれども、多岐に渡っています。弔意の歌、旅情、引越しの叙情、階位への執着等々。
伊勢物語が啓蒙書とか教養書として成功したので、その形式を使って、宮廷を中心とした物語が編纂されたのではないでしょうか。
当時の貴族の生活・風俗が、より広く伺えます。特に、帝をはじめとする高い位の人たちの暮らしが伺えるという点は、他に無いように思われます。
また、「伊勢物語」に比べて、歌に詠まれるディテールがより細かくなった印象があります。高貴な人の娘や下女の視点から詠まれた歌も多いです。法師や大徳と呼ばれる高僧の恋愛がしばしば取り上げられているのも興味深いです。
「宮廷周辺ではこんなことが行われているのですよ」と、当時の風俗を、いろいろな角度で切り取った感じがあります。その辺が映画ライクですね。
平安の空気が伝わる物語として、これはもう一度、じっくり読みたいです。

「マンガ」みたいな平中物語。

「伊勢物語」が一代記、「大和物語」がオムニバスといった形式を取っているとすると、「平中物語」は、私小説というか、漫画の連載ものという印象を与えます。
初めの方には、平中なる歌人、平定文の生い立ちや性格を現すエピソードが置かれています。平中という人は、さほど階位の高い人でもないが、詩人の気風があり、好色この上ない人でありました。
以降、その性格に基づいた色恋話が延々と続くのです。
伊勢物語や大和物語が、歌の詠み方や、宮廷風俗といった啓蒙的な点に力を置いていたの比べ、「平中物語」は、平中というキャラクターにかこつけて「恋愛の百相」をテーマにしているように思われます。
作者は様々なシチュエーションを用意します。それは、とても一人の男子では勤まらないほど多数の恋の数々です。
作者は不詳ですが、きっと自分と人々の楽しみのために書いたのだろうといった印象を受けました。

ここで一つひとつの歌には触れませんが、恋歌は相手がいなくては成り立たないのですね。
歌を送った、こんな歌を返された。これは、たいてい男女間のことです。色好みの女というのもしばしば登場します。平安女子はなかなか、自由な環境と伸びやかな心を持っていたようです。


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