Home > Today's Book一覧 > 江戸戯作にはまったことなど。
江戸文学について、高校時代、図書館にあった江戸戯曲集や浄瑠璃集みたいなもので、近松門左衛門や井原西鶴などは多少読んだ気がします。
落語などは幼い頃から好きで、寿限無や頭山は暗記したくらいでしたが、それは文字の上。寄席に通うような環境でも無く、テレビでは楽しく見るという程度でした。
再び、関心を高めたのは、随分以前に、ブックオフで、「古典 日本文学全集筑摩書房 28・29巻 江戸小説集」を入手したこと。
確か1冊100円かもう少しだったか。ありがとうブックオフw。
若い頃、古書店巡りをしてきたので、古書の価値はまあまあ分かります。
江戸小説集 古典日本文学全集 筑摩書房 28
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I000444628-00
江戸小説集 古典日本文学全集 筑摩書房 29
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000927775-00
リンク先をご覧頂けばお分かり頂けると思いますが、
上巻:世間子息気質 金々先生栄花夢 江戸生艶気樺焼 遊子方言 通言総籬 雨月物語 春雨物語 春色梅児誉美
下巻:醒睡笑 風流志道軒伝 東海道中膝栗毛 浮世床
と、江戸戯作の精髄が収録されています。現代語訳とは言え、今と違い、なかなか原文尊重志向があり、それは脚注の多さなどにも表れています。
また、解説の一部に永井荷風が名を連ねていることも見逃せません。
私、永井荷風は日本のボードレールとも感じ、代表作はもとより、様々な随筆、断腸亭日常まで読み漁り、今も未読のものに出会い次第読んでおります。
怪談趣味は元々ありまして、上田秋成の雨月物語は、小学生の頃から親しみ、芥川龍之介の言説などで再発見していたのですが、春雨物語は上記の本で初めて出会いました。
春雨物語の樊噌(はんかい)では、恐いもの知らずの主人公が、神に挑んで一度は窘められるが、父、兄を殺して、無法者の道を歩みます。
まるで、運命の神が支配する古代ギリシャ文学を想起させる展開です。その他、春雨物語の各物語もそれぞれ完成度は高いのです。
上田秋成という人が、雨月物語、春雨物語以外に、何も残していないことは不思議なことです。
「風流志道軒伝」は、土用の鰻やエレキテルで知られる江戸の天才、平賀源内の作。
これは、浅草寺の境内で、怪しげな説法をする志道軒という老人の出生からの伝記なのですが、その内容は奇想天外。
スウィフトのガリバー旅行記と酷似して、異国を経巡る物語ですが、そのモチベーションが色欲と言うところは江戸戯作らしい。
空前絶後なこの小説は、江戸戯作の系譜とも外れる唯一無二なもので、やはり平賀源内は天才だったのだなと思わざるを得ません。
ガリバー旅行記よりほんの少し後に書かれたものなので、その影響があったか無いかと言う議論は微妙なところです。
源内以外にも、巨人国や、手足長足国、女護国と言った概念は見られます。
それは、瑣細なことで、この戯作が意図するところは、当時の世相に対する怒りであると感じました。
やはり、世の中が見え過ぎていたのでしょう。源内は、頭に血が上ったような事件を起こし、獄死することになりました。
十返舎一九の「東海道中膝栗毛」は、江戸庶民にバカウケした戯作で、それだけに江戸庶民の感覚が分かる作品とも言えます。
上記、書籍に収録のものは、伊勢参りで終わっているのですが、続きがあると知り、子供向け絵本やら岩波の原文版などまで読み込みました。
京都以降の続きもあるらしいのですが、まだそれを読む機会がないのが残念です。
為永春水の「春色梅児誉美」は、江戸も大分後期で、現代の小説のルーツにも繋がる戯作と言えるかも知れません。
色里を舞台に、平易な会話体で色恋の機微をすくい上げる。筋書きはシンプルで、読者の感情を自在に操る。
面白過ぎて、読後は泣いてしまいました。滅多にない経験です。
どこが良いとかなかなか言いにくい。
永井荷風は為永春水に大分学んだところがあると思います。
荷風の名作と言われるものには、為永春水を現代的にしたところがある。
あと、孤高に見える泉鏡花も、為永春水の影響があったろうと想像されます。
その他、世間子息気質、金々先生栄花夢、江戸生艶気樺焼、遊子方言、通言総籬、浮世床などは、江戸文学の発展の過程と風俗、その型などを教えてくれます。
そんなこんなで江戸戯作にはまって久しいのです。
※コメントは承認制です。反映に多少お時間を頂きます。