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BOOKS

玩物草紙ー澁澤龍彦。

澁澤の素顔が見える?エッセー集。

2013.05.04


玩物草紙ー澁澤龍彦・中公文庫

いい齢になってから、「澁澤龍彦を読んだ」と言うのは、何故か気恥ずかしい。実際、池袋西口公園の古本市でたまたま手にしたのであり、特に読みたかったわけでもない。
などと言い訳めいたことを言ってしまうのは、澁澤龍彦という人の文業が、読む側の思春期というものと結び付いているからではないだろうか。澁澤龍彦のエッセー類は、聞いた事も無いような人名が頻出する一方で、文章は平明である。若者に新しい観念を示唆するという役割を、私が若い頃には果たしていたと思う。今でもやはり、澁澤龍彦は若い人に読まれているのではないだろうかと想像する。
それが物足りなくなってくるのは、澁澤龍彦という人が可能な限り現実世界との接触を抵んでいるからであり、その観念世界は横には広がるが、縦には深まらないからではないかという気がする。
澁澤龍彦において、現象は全て抽象化され、類推と連想によって観念または象徴の中に位置付けられる。そうした知的作業の繰り返しを良しとするマニエリストでもある。

昭和53年1月から「朝日ジャーナル」に連載された「玩物草子」は、澁澤龍彦、五十代のエッセー集。回顧的なエピソードが多く、珍しく澁澤の肉声に触れるような面白さがあった。少年期の思い出を、多彩な引用によって観念世界に位置付けるのは、いつもの澁澤龍彦である。前半は、軽い読み物を意識したエッセーが多いけれども、終わりが見えて来るにつれ、露悪的なダンディズムを呈するようになってくる。
猫を苛めたり、奥さんの顔に葉巻を押し付けた話、赤裸々な男根の遊戯、将校のズボンを焦がした話等、これらは表現上の幼いヒロイズムの発露であろうから、本当の本人の気性をどこまで表しているかは分からない。
とは言え、澁澤龍彦は、観念世界だけで実現する自己中心のヒロイズムを追求した人だろう。それが若者には格好良く見え、共感を抱かせる。そして、私くらいの齢になると気恥ずかしさを覚えさせるのではないだろうか。

実は、本書を読んだのは少し前で、その最中に、NHKの探検バクモンという番組で「東大総合研究博物館・インターメディアテク」を取り上げていた。ここでの資料類は、資料本来の意味から離れ、別の多様な意義付けができるように展示されているようだった。澁澤龍彦が見たらきっと大喜びしただろう。私自身、大変興味をそそられたので、一度、この場所を訪れたい。澁澤龍彦ならどう言うだろうかなどと考えながら。


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