Home > Today's Book一覧 > 岡本綺堂-綺堂随筆 江戸の思い出。
こちらの本は5月17日の「鬼子母神通り商店街・みちくさ市」にて購入。
冒頭の「島原の夢」を2、3ページめくると、江戸から続く明治初期の東京の風景が浮かんでくるようだった。
島原(今の新富町)の新富座の描写は、泉鏡花の「照葉狂言」を連想させた。
何故か私は、この頃、明治初期を回顧的に書いた書物を読む事が多く、江戸の風情を残した描写は見たこともないのに懐かしい気持ちになってしまう。
「綺堂随筆 江戸の思い出」は、明治初期の風景がたくさん散りばめられていた。
それらの風景・風俗は魅力的だが、やはり人間を描いたものに関心が向く。
西郷さんに取り憑かれたような男の話「西郷星」や、大工の留さんを追悼した「ゆず湯」が心に残る。
綺堂は、これらの出来事にたくさんの注釈を加えず、淡々と見て思ったことを描いている。そのスタンスが良い。
解決しようが無いことは、そのまま受け入れるのが正解なのかも知れない。
改めて綺堂の文章を読むと、とても素直だ。新聞記者上がりというのもあるのかもしれない。
本書の前半は、幼少期から時代を辿っているように見えるけれども、あとづけの初出誌紙を見ると、必ずしも年代通りではないようだ。
もう、岡本綺堂は青空文庫にも収録されている。その文章を見ても、素直で安定している。
実は、私は岡本綺堂を食わず嫌いだった。それは、職業作家という先入観があったせいかもしれない。
時代劇を見るよりは、その時代の文学を読んだ方が面白いじゃないか。
半七捕物帖の二、三篇を読んでも、やっぱり作りものの感じがする。綺堂は怪談が好きだけれど、理知的な人なんだろうなと思う。
しかし、随筆は面白い。書きなぐったようなものもあるけれど。
タブレットで読むには、丁度良い。「読むぞ」と構えさせないし。
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